万人にとって「正しい」入浴法というのは存在せず、個々の肌質・年齢や病気による肌の状態・季節や土地柄に応じて「ベスト」な入浴方法は変わってくると思います。
ここではアトピー性皮膚炎の患者さんにむけて一般的に良いとされる入浴法、そしてもう少し踏み込んで私が良いと思う入浴法について解説します。これを参考に、ご自身に合う入浴法を模索してください。
まとめ
アトピー性皮膚炎の患者さんの入浴法についての考察
- 「擦らない」「ゴシゴシしない」
- 石鹸の泡で、素手でやさしく洗う
- 石鹸・ボディーソープは敏感肌用を用いる
- 石鹸の使用部位は最低限にとどめる:「わき」「陰部」「足」「頭皮」(各自の体質、季節、1日の汚れ具合を考えて石鹸を使う)
原則
- 湿疹が悪いときは短時間の入浴にとどめる
- 症状がよくなってきたら徐々に半身浴を行い発汗できる体づくりをする(熱中症に注意)
湿疹の状態に応じて入浴法を変える
入浴は体を清潔にする行為で、心身のリラックス効果も見込めます。
一方、角質や皮脂を余計に取りすぎてしまい、皮膚のバリア機能が低下する可能性もあります。そのため、アトピー性皮膚炎のようにバリアが弱い患者さんは入浴の方法に注意が必要です。

入浴の具体的な注意点 1~4)
清潔に、かつ過剰な洗浄をしない
体を清潔にすることは大切です。一方、過度に洗浄しすぎると乾燥して、皮膚バリア機能が低下し、アトピーの悪化の原因となります。
ご自身の個々の肌質・年齢や病気による肌の状態・季節や土地柄に応じたシャワーや入浴方法・回数を模索してください。

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石鹸やシャンプーはご自身にあっていますか?
皮脂を落としすぎる石鹸は乾燥のもとです。強い洗浄力の石鹸・ボディーソープ・シャンプーは避けましょう。
アトピー性皮膚炎の状態が悪い方、乾燥肌の方は、石鹸の使用部位を最低限にとどめて、湯ですすぐだけでも良いと思います。「わき」「陰部」「足」「頭皮」などの汗が貯まりやすい部位・臭いが生じやすい部位は石鹸を用いて洗い、それ以外の部位は石鹸を使わずにお湯ですすぐ程度や入浴する程度にしてみてもよいでしょう。
タオルやあかすりは用いない
石鹸の泡を、素手でやさしく肌につけます。すると汚れが石鹸で包まれて浮いてきますので、それをシャワーで流します。
ゴシゴシと体を洗う必要はありません。ゴシゴシは掻いているのと同じです。
特にタオルやスポンジやあかすりは用いない方がよいです。
「ナイロンタオル皮膚炎」という病気があります。ナイロンタオルでゴシゴシ体を洗っていると、色素沈着が起こります。
色素沈着は、炎症を起こしている証拠です。つまり、ゴシゴシ洗って肌を傷つけて炎症を起こしているのです。
正常な方でも「ナイロンタオル皮膚炎」を起こしますので、アトピーの方のゴシゴシ洗いは厳禁です。
石鹸・シャンプーはしっかり流す
石鹸やシャンプーが残留するとかゆみの原因になります。石鹸・シャンプーの原液を肌につけていると、正常な人でも刺激で皮膚炎を起こすでしょう。しっかりすすいで落とします。
特にシャンプーは残留しやすいです。髪にお湯を含ませて、しっかりすすぐようにしましょう。
お湯は熱くしすぎない
体が温まると、かゆみが増します。そのため38~40程度の低めの温度がよいでしょう。
同じ理由で、長湯はかゆみが増す可能性があります。皮膚の状態が悪いときは、シャワーだけにする、または入浴時間を5~10分にしましょう。
温泉の素は用いない
いわゆる「温泉の素」は硫黄分が含まれていることが多く皮膚の乾燥させます。悪化の原因になるので使用しない方がよいでしょう。
お風呂から出た後もタオルでこすらない

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入浴後に体を拭くとき、ゴシゴシこすっていませんか?ゴシゴシは掻いているのと同じです。
タオルに水分を吸ってもらうイメージです。やさしく肌にタオルをあてて、水分を吸収させます。
アトピー性皮膚炎にお風呂は良いの?悪いの?
アトピー性皮膚炎の入浴については、皮膚科医のあいだでも色々な考えがあります。
最低限のシャワー洗浄で終わらせることを提唱している先生もいれば、半身浴をすすめる先生もいます。また、保湿効果のある入浴剤について医学的に検討されていたりもします。
当院ではアトピー性皮膚炎の状態によって入浴法を変えることを推奨しています。
湿疹がひどいと発汗に影響しますので、身体に熱がこもりやすくなります。そのような時期は、短時間の入浴を心がけます。「わき」「陰部」「足」「頭皮」などの汗が貯まりやすい部位・臭いが生じやすい部位のみ石鹸を用いて洗い、それ以外の部位は石鹸を使わずに湯ですすぐ程度にしてみましょう。
アトピー性皮膚炎が良くなってきたら、半身浴を取り入れてもよいと思います。半身浴もいきなり何十分も入浴するのではなく、徐々に入浴時間を延ばして体を慣らしてください。くれぐれも熱中症で倒れないように気を付けてください。また、水分はこまめに摂取してください。
徐々に発汗できる体を目指していきましょう。
入浴してリラックス
入浴にはリラックス効果もあります。あまり堅苦しく考えすぎず、気持ちを落ち着かせる手段として入浴を楽しめるようになりましょう。

まずは薬物治療が大前提
ここで紹介する「入浴法」は重要なことではありますが、まずは塗り薬をぬる、保湿をするといった薬物治療がきちんと行われていることが重要です。
重症度に応じた入浴の仕方
今回のブログを書くにあたり、院長の考えを反映させました。それは「湿疹の悪化時と寛解時」で入浴法を変えるという提案です。薬物療法でも急性期と寛解期で異なる治療になるのであれば、皮膚の状態に応じて入浴の仕方を変えてもよいのではないかと考えています。
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参考文献
1) 医学のあゆみ 256: 113-119. 2016
2) 医学のあゆみ 210: 84-89. 2004
3) エキスパートが答える!アトピー性皮膚炎Q&A55
4) 日経ヘルス2005年2月号