粉瘤は皮膚の下に袋状の構造物が形成された「嚢腫(のうしゅ)」の一種です。

診察の際に「どうして粉瘤ができるのですか?」と聞かれることがあります。
確かに、とても気になる疑問です。
粉瘤ができる機序については、医学的にまだ完全には解明されていません。
ただし、これまでの研究や統計からいくつかの仮説が示されており、皮膚科の分野ではある程度の共通した理解が得られています。
粉瘤は一つの原因だけで起こるのではなく、人によって異なる理由が関わっていると考えられています。
そのため、提示されている仮説の中から「これが正しい」と断定することは難しいのです。
ここでは、代表的な発生の仮説についてご紹介します。
粉瘤ができるメカニズム(説)
毛包漏斗部の閉塞・貯留
この説が、最も一般的でよく知られている説です。
毛包漏斗部(もうほう-ろうとぶ)とは、皮膚表面に最も近い部分であり、皮脂腺の開口部から皮膚表面までの漏斗状の管を指します。

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毛包漏斗部が角質や皮脂で閉塞し、出口を失った皮膚の細胞が行き場を求めて内側へ向かって増殖し始め、内容物が貯留・拡大して「袋」状(嚢腫)を形成するという説です。
炎症や外傷が誘因となりやすいと考えられています。
中心に黒い点(開口部)が見えるのは、そこが元々の毛穴の出口だった名残です。
一方で、毛包のない手のひら・足の裏にも粉瘤ができることから、この説だけで全てを説明することは困難です。
外傷により表皮が入り込む
外傷や手術で表皮が真皮内に埋没し、そこで増殖して嚢腫(粉瘤)を形成するという説です。
実際に、皮膚片を実験的に皮膚の内部に入れ込んだところ、粉瘤のような嚢腫構造が発生したとする動物を用いた基礎研究があります。
ウイルス感染(HPV)が契機となり「エクリン汗腺」が嚢腫へと変化
手のひらや足の裏には毛包(毛穴)がありません。
一方で、体温調節のために汗を分泌する「エクリン汗腺」が多く存在するのが特徴です。
ウイルス性イボ(尋常性疣贅等)の原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)が、この「エクリン汗腺」の管の細胞に感染して細胞を異常に増殖させることで、本来は管であるはずの場所が「袋(嚢腫)」へと変化して粉瘤を形成する例が報告されています。
遺伝要因
ガードナー症候群(Gardner症候群)や基底細胞母斑症候群でも多発することがあります。
このことから、遺伝的要因も粉瘤の発生に関与していることが分かります。
粉瘤の手術法
当院で行っている小手術の中で、最も症例数が多いのが『粉瘤』です。
切除の方法は「紡錘形切除」「くり抜き法」の主に2通りがあります。
詳しくは以下のページで説明しております。
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参考文献
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