皮膚科では様々なキズ(傷・創・潰瘍)を診察します。
手術後の縫ったキズ、ヤケドのキズ、外傷、床ずれ(褥瘡)、うっ滞性潰瘍、強皮症などの膠原病で生じたキズ、水疱症で生じたキズ、腫瘍によって生じたキズなど、その種類は多彩です。
今回はキズの治療の疑問について解説します。
キズ治療の疑問
Q キズは消毒した方がよいですか?
原則、消毒は不要です。
キズといえば「消毒」と思う方も多いと思いますが、今は「キズは消毒しない」が普通になっています。
「キズは消毒しなくていいよ」というと驚く方も多いです。
消毒が不要な理由は、消毒液によってキズを刺激してしまい、キズの治癒を妨げると考えられるようになってきたからです。
それではどうすればよいか?
日本のシャワーはかなりきれいなので、キズに石鹸の泡を優しくつけて汚れを浮かしてシャワーで流すだけでもキズ表面の細菌はグッと減ります。
通常はそれで充分です。
そうは言っても、消毒を完全否定しているわけではありません。
シャワー洗浄ができない場合、感染したキズの場合、またはシャワー洗浄だけでは不安がある方は、弱めの消毒液で消毒しても構わないと思います。
市販薬のマキロンなどの弱めの消毒液であれば、経験的にキズの治癒が劇的に変わるわけではありません。
ただしイソジンやオキシドールなどの強めの消毒液は避けていただいた方がよいでしょう。
また「かぶれ」る場合は使用しないでください。
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私が医師になる頃「手術後の縫合したキズは消毒しない」が浸透しはじめた頃でした。
それまでは、極端な場合、1日数回イソジンで手術のキズを消毒していた時代もあったようです。
皮膚科に入局した1年目の私は、早速、手術後の縫った傷を生食で洗ったり、被覆材で覆ったりしてみました。
その結果、劇的に傷の治りがよくなり……とはいかず、正直なところ弱い消毒液を使用しても、たいしてキズの治りは変わらないような印象でした。
糸で縫ったキズは、キズの表面が露出しているわけではないので治癒過程にほとんど影響しないのだろうと考えています。
それであれば、消毒はせずに1日1回体を洗う時に一緒にキズもシャワーで洗ってしまう方が合理的です。
ちなみに、皮膚科1年目の私が術後のキズを消毒しなかったものですから、上級医から「キズを消毒しない変な医者」と白い目で見られるという……
医療界では、一時期「消毒は悪!」くらいに完全否定する方もおられましたが、何事も行き過ぎはよくありません。
患者さんによっては1日1回、浴室に移動してキズを洗うという行為自体が大変でできない方もいます。
1日~数日ほどキズの治りが遅くなったとしても、弱い消毒液で処置してもらった方がよい場合もあります。
最近ではガイドラインなどをみていも消毒薬を許容するような文面も一部で見られてきています。
何事も状況に合わせた対応が必要でしょう。